タットヴァ・ボーダ
TATTVA BODHA
全文無料公開
『タットヴァ・ボーダ』は、インド思想の不二一元論(アドヴァイタ・ヴェーダーンタ)の綱要書です。解脱を求める者が整えるべき備えの定義から始まり、世界の成り立ち、身体と真我の識別、ブラフマンとの不二の認識へと、段階を追って問いと答えを重ねていく散文問答形式のテキストです。著者は伝統的にアーディ・シャンカラ(8世紀頃)の作とされていますが、付属の注釈はシャンカラーナンダ師を作者として伝えており、成立の詳細は確定されていません。
本書は「四つの備え」の定義から始まります。永遠なるものと永遠ならざるものを見分けること、この世とあの世の楽しみから離れること、心の制御をはじめとする六つの徳、そして解脱を願い求めること。この四つが定義された後、宇宙の成り立ち、三つの身体、食物鞘から至福鞘まで五つの鞘、個我とブラフマンの同一性へと続きます。最終節では「真我を知る者はこの生のうちにブラフマンの至福を得る」と結ばれます。知ることそのものが解脱の手立てになるというのが、本書一貫した立場です。
和訳・解説付きで全文をお読みいただけます。原文(デーヴァナーガリー・IAST)は各詩節の折りたたみ内に収録しており、サンスクリット学習にも活用できます。
底本
1852年版と1896年版の2種の刊本を底本としています。いずれもパブリックドメインです。
底本の詳細
mūla 底本(原文テキスト)
The Ātmabodha, with its Commentary; also the Tattwa-bodha(Orphan School Press, Mirzapore, 1852年)所収の Tattwa-bodha を主底本としています。現存する最古の刊本で、標準的な読みを持ちます。
ṭīkā 底本(注釈テキスト)
Tattva Bodha of Shankaracharya with Mihir Chandra Tika(Khemraj Publishers, 1896年)を底本としています。1852年版とは系統の異なるテキストで、1852年版にない節(五つの知覚器官・行為器官の列挙とその守護神、内なる器官の四区分の定義など)を含みます。本書では節の区切りを Khemraj 版の構成に従い、同じ文に読みの違いがある場合は 1852年版を優先しました。注釈そのものの和訳は行わず、解説の参考に留めています。
異読参照
University of Pennsylvania Libraries OPenn 掲載の写本(Ms. Coll. 390 Item 1251: Tattvabodha)を校合資料として参照しています。画像・内容は Public Domain Mark、メタデータは CC BY 4.0 で公開されています。
序詩節
礼拝と主題
知を授ける師、ヨーガ行者の長たるヴァースデーヴェーンドラに礼して、解脱を求める者たちのために、真理の覚知をここに説き起こす。
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
वासुदेवेन्द्रयोगीन्द्रं नत्वा ज्ञानप्रदं गुरुम् ।
मुमुक्षूणां हितार्थाय तत्त्वबोधो विधीयते ॥
vāsudevendrayogīndraṃ natvā jñānapradaṃ gurum ।
mumukṣūṇāṃ hitārthāya tattvabodho vidhīyate ॥
解説
本書は、師への礼とともに目的を掲げる短い序の詩節から始まる。「ヨーガ行者の長」と讃えられるヴァースデーヴェーンドラは、本書を伝えた師の名と解される。冒頭で師を礼拝するのは古典の定型であるが、単なる作法ではない。これから説かれる知が、誰かの思いつきではなく、師から弟子へと手渡されてきた教えの流れに属することを、最初の一行が告げている。
ここで掲げられる宛先は、解脱を求める者たちであり、約束される主題は、真理の覚知である。書名そのものでもあるこの語は、自己と自己ならざるものとを見分け、変わらない実在を見定める知を指す。覚知と呼ばれるのは、それが書物の知識の蓄積ではなく、目が覚めるように起こる了解だからである。
誰のために、何を、何のために説くのか。冒頭のわずか二行に、本書の設計図が収められている。ここで利益と呼ばれているものは、富でも天界の果報でもなく、解脱そのものである。この一点へ向かって、以後の問答のすべてが組み立てられていく。
目次
有料出版書籍
同じ訳者による完全版(原文・解説・用語集付き)の有料書籍もあります。