第五章 宇宙の展開 — タットヴァ・ボーダ
詩節 30–38 / 目次へ
30. マーヤーと空の生起
次に、二十四の原理が
どのように生じるかを述べよう
闇質の勝ったマーヤーをまとった
ブラフマンから、虚空が生じた
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
अथ चतुर्विंशतितत्त्वोत्पत्तिप्रकारं वक्ष्यामः ।
ब्रह्मणस्तमोगुणप्रधानमायोपहितादाकाशः सम्भूतः ।
atha caturviṃśatitattvotpattiprakāraṃ vakṣyāmaḥ ।
brahmaṇastamoguṇapradhānamāyopahitādākāśaḥ sambhūtaḥ ।
解説
真我の見分けが一段落し、ここから視点を変えて、世界がどのように立ち上がるかという主題が始まる。
すべての始まりに置かれるのは、ブラフマンと、それをまとうマーヤーである。マーヤーのうち重く覆う性質、すなわち闇質(タマス)が勝ったとき、そこから最初の元素である虚空が生じる、と語り起こされる。
真我を見分ける本書に、世界の成り立ちの説明が挟まれるのは、回り道ではない。世界が独立した実在に見えているかぎり、それと関わる「私」も身体の側に縛られたままになる。世界のすべてがブラフマンを土台に立ち上がったものだと知られてはじめて、見分けは足元まで届く。
ブラフマンから空が生じるという語り出しは、タイッティリーヤ・ウパニシャッドの古い創造の教えに連なる。本書はそこへマーヤーという整理を重ねており、生じるのはブラフマンそのものからではなく、マーヤーをまとったブラフマンから、という限定が利いている。世界が立ち上がっても、ブラフマンそのものは変わらないままである。
一なる意識から多様な世界への展開を、二十四の原理の生起として順に描いていく、その出発点である。
31. 五元素の生起
虚空から風が、風から火が、
火から水が、水から地が生じた
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
आकाशाद्वायुः ।
वायोस्तेजः ।
तेजस आपः ।
अद्भ्यः पृथिवी ।
ākāśād vāyuḥ ।
vāyos tejaḥ ।
tejasa āpaḥ ।
adbhyaḥ pṛthivī ।
解説
最初に生じた虚空から、残る四つの元素が順に展開する。
虚空から風、風から火、火から水、水から地。微細なものから粗大なものへと、一つ前の元素を母体にして次が生まれる、という連なりである。
注釈はこの連なりを、性質の蓄積として説明する。虚空はひびきだけを持ち、風はひびきと手ざわりを、火はさらに色かたちを、水は味を、地は香りまでを具える。後に生じる元素ほど捉えられる性質が増え、それだけ粗大になっていく。
意識に最も近い、ほとんど何もないに等しい虚空から、最も手ざわりの濃い地まで。世界は一なるものから段階を踏んで濃くなっていく、という向きが一貫している。世界の素材となる五つの大元素が、こうして出そろう。
32. 五つの知覚器官の生起
これら五つの元素のうち、
空の純質の分から聴覚が生じ、
風の純質の分から触覚が、
火の純質の分から視覚が、
水の純質の分から味覚が、
地の純質の分から嗅覚が生じた
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
तेषां पञ्चतत्त्वानां मध्य आकाशस्य सात्त्विकांशाच्छ्रोत्रेन्द्रियं सम्भूतम् ।
वायोः सात्त्विकांशात्त्वगिन्द्रियं सम्भूतम् ।
अग्नेः सात्त्विकांशाच्चक्षुरिन्द्रियं सम्भूतम् ।
जलस्य सात्त्विकांशाद्रसनेन्द्रियं सम्भूतम् ।
पृथिव्याः सात्त्विकांशाद्घ्राणेन्द्रियं सम्भूतम् ।
teṣāṃ pañcatattvānāṃ madhya ākāśasya sāttvikāṃśācchrotrendriyaṃ sambhūtam ।
vāyoḥ sāttvikāṃśāttvagindriyaṃ sambhūtam ।
agneḥ sāttvikāṃśāccakṣurindriyaṃ sambhūtam ।
jalasya sāttvikāṃśādrasanendriyaṃ sambhūtam ।
pṛthivyāḥ sāttvikāṃśādghrāṇendriyaṃ sambhūtam ।
解説
五つの元素は、それぞれが純質(サットヴァ)・激質(ラジャス)・闇質(タマス)の三つの性質を含んでいる。ここからは、その性質ごとに何が生まれるかが述べられる。
まず、各元素の澄んだ純質の分から、五つの知覚器官が一つずつ生じる。空から聴覚、風から触覚、火から視覚、水から味覚、地から嗅覚である。
それぞれの器官が、自らの生まれもとの元素の対象を受け持つ。聴覚が空のひびきを、嗅覚が地の香りをとらえるように、感覚と世界とは同じ素材から出た対応関係にある。
ここで注意したいのは、知覚の器官さえも、生み出されたものの目録に載っている、ということである。見る働きや聞く働きは、世界を知る側に立っているように見えて、成り立ちの上では世界と同じ素材に属している。知られるものだけでなく、知る道具までもが、現れの側にある。
33. 内なる器官の生起
これら五つの元素の純質の分を
合わせたものから内なる器官が生じ、
その働きの違いによって、
思いをめぐらす心、判断する知性、
「私」という自我、
記憶をたくわえる心の四つに分かれる
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
एतेषां पञ्चतत्त्वानां समष्टिसात्त्विकांशादन्तःकरणं तद्वृत्तिभेदान्मनोबुद्ध्यहङ्कारचित्तानीति चतुर्धा ।
eteṣāṃ pañcatattvānāṃ samaṣṭisāttvikāṃśādantaḥkaraṇaṃ tadvṛttibhedānmanobuddhyahaṅkāracittānīti caturdhā ।
解説
各元素の純質が一つずつ知覚器官になるのに対し、五つの元素の純質を合わせたものからは、内なる器官が生じる。
内なる器官とは、感覚が受け取ったものを引き受けて、思い、決め、たくわえ、「私」と引き受ける、心のはたらき全体の呼び名である。それが四つの面を持つことから、四つ組として数えられる。
一つの元素に偏らず全体から生まれるからこそ、内なる器官はどの感覚の報せも等しく受け取れる、と注釈は補っている。
思い、決め、たくわえ、「私」と引き受けるという心の働きの全体が、元素から生じたものとして、ここに並べられている。心ですら、生まれたものの側にある。観察される側と観察する側とを分かつ本書の見極めが、生起の目録のなかでも貫かれている。
34. 内なる器官の四区分
意図と疑念をその性質とするのが心である
決定をその性質とするのが知性である
「私がなす」と引き受けるのが自我である
思いをめぐらし、思い返すのが
記憶の心である
心の守護神は月、
知性の守護神はブラフマー、
自我の守護神はルドラ、
記憶の心の守護神はヴァースデーヴァである
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
संकल्पविकल्पात्मकं मनः ।
निश्चयात्मिका बुद्धिः ।
अहंकर्त्ता अहंकारः ।
चिन्तनकर्तृ चित्तम् ।
मनसो देवता चन्द्रमाः ।
बुद्धेर्ब्रह्मा ।
अहंकारस्य रुद्रः ।
चित्तस्य वासुदेवः ॥
saṃkalpavikalpātmakaṃ manaḥ ।
niścayātmikā buddhiḥ ।
ahaṃkarttā ahaṃkāraḥ ।
cintanakartṛ cittam ।
manaso devatā candramāḥ ।
buddherbrahmā ।
ahaṃkārasya rudraḥ ।
cittasya vāsudevaḥ ॥
解説
内なる器官の四つの面が、それぞれの働きによって定義され、知覚器官と同じく、一つひとつに守護神が配される。
迷い思いめぐらすのが心、決着をつけるのが知性、何ごとも「私がなす」と引き受けるのが自我、過ぎたことをたどり、思い返すのが記憶の心である。
四つは別々の器官ではなく、同じ一つの内なる器官が、働きに応じて違う名で呼ばれているにすぎない、と注釈は念を押している。心には月、知性にはブラフマー、自我にはルドラ、記憶の心にはヴァースデーヴァが、それぞれの働きを支える神として配される。
日々の内面で起こることは、おおむねこの四つの名で大づかみにできる。迷いがあれば心が、決断があれば知性が、手柄や悔いの引き受けがあれば自我が、思い出がよぎれば記憶の心が働いている。内面の出来事に名前を与えるこの区分けは、心の動きを「私」から切り離して眺めるための道具になる。
35. 五つの行為器官と生命の気の生起
これら五つの元素のうち、
空の激質の分から言葉の器官が、
風の激質の分から手が、
火の激質の分から足が、
水の激質の分から排泄の器官が、
地の激質の分から生殖の器官が生じた
そして、これら五元素の激質の分を
合わせたものから、
五つの生命の気が生じた
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
एतेषां पञ्चतत्त्वानां मध्य आकाशस्य राजसांशाद्वागिन्द्रियं सम्भूतं वायो राजसांशात् पाणीन्द्रियं सम्भूतं वन्हे राजसांशात् पादेन्द्रियं सम्भूतं जलस्य राजसांशात् पाय्विन्द्रियं सम्भूतं पृथिवीराजसांशादुपस्थेन्द्रियं सम्भूतम् ।
एतेषां पञ्चतत्त्वानां समष्टिराजसांशात् प्राणपञ्चकं सम्भूतम् ।
eteṣāṃ pañcatattvānāṃ madhya ākāśasya rājasāṃśādvāgindriyaṃ sambhūtaṃ vāyo rājasāṃśāt pāṇīndriyaṃ sambhūtaṃ vanhe rājasāṃśāt pādendriyaṃ sambhūtaṃ jalasya rājasāṃśāt pāyvindriyaṃ sambhūtaṃ pṛthivīrājasāṃśādupasthendriyaṃ sambhūtam ।
eteṣāṃ pañcatattvānāṃ samaṣṭirājasāṃśāt prāṇapañcakaṃ sambhūtam ।
解説
純質に続いて、動きを生む激質(ラジャス)の分から何が生じるかが述べられる。
各元素の激質の分からは、語る・取る・歩く・排泄する・生殖するという五つの行為器官が一つずつ生じる。そして五元素の激質を合わせたものからは、五つの生命の気が生じる。
純質からは知る側の器官が、激質からは動く側の器官が生まれる。澄んだ性質が知をささえ、動の性質が行為をささえるという対応である。
同じ元素でも、取り分の性質によって生まれるものが分かれる。一人の人間のなかで、知ることと動くことが別の系統として働くのは、生まれもとの性質が違うからだ、という説明がここに含まれている。
36. 五大元素の成立
そして、闇質の勝ったこれら五つの元素が、
互いに組み合わされることによって、
五つの大元素となる
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
एतेषां पञ्चतत्त्वानां तमोगुणप्रधानानां पञ्चीकरणेन पञ्चमहाभूतानि भवन्ति ।
eteṣāṃ pañcatattvānāṃ tamoguṇapradhānānāṃ pañcīkaraṇena pañcamahābhūtāni bhavanti ।
解説
最後に、重く覆う闇質(タマス)の分のゆくえが述べられる。
純質の分からは知る器官と内なる器官が、激質の分からは行為器官と生命の気が生じた。残る闇質の勝った五つの元素は、互いに組み合わされること、すなわち五重化を経て、目に見える粗大な五つの大元素となる。
純質から知る側が、激質から動く側が、そして闇質から世界の素材が生まれる。三つの性質の役割分担が、これで出そろった。
知ることも動くこともしない闇質が、かえって世界の素材になるという配役には理屈がある。覆い隠し、重く濃くする性質だけが、手で触れられるほどの粗大さを生み出せるからである。
37. 五分化の仕方
五元素の組み合わせは どのように行われるのか
これら五つの元素について、
それぞれの元素を二つの等しい半分に分け、
その一方の半分はそのまま置いておく
もう一方の半分をさらに
四つの等しい部分に分け、
その四つを、自分以外の四つの元素の
それぞれに結びつける
これが五元素の組み合わせである
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
पञ्चीकरणं कथम् ।
एतेषु भूतेषु एकमेकं भूतं द्विधा समं विभज्यैकमेकमङ्गं तूष्णीं व्यवस्थाप्यापरमपरमर्धं चतुर्धा समं विभज्य स्वार्धभिन्नेष्वन्येषु स्वभागचतुष्टयसंयोजनं पञ्चीकरणं भवति ।
pañcīkaraṇaṃ katham ।
eteṣu bhūteṣu ekamekaṃ bhūtaṃ dvidhā samaṃ vibhajyaikamekamaṅgaṃ tūṣṇīṃ vyavasthāpyāparamaparamardhaṃ caturdhā samaṃ vibhajya svārdhabhinneṣvanyeṣu svabhāgacatuṣṭayasaṃyojanaṃ pañcīkaraṇaṃ bhavati ।
解説
ここで、これまで何度か触れられてきた「五つに組み合わせる」仕組み、すなわち五重化(パンチーカラナ)そのものが問いに上がる。
五つの元素は、まずそれぞれ半分に分けられる。半分はそのまま残り、もう半分はさらに四等分されて、ほかの四つの元素へ一つずつ配られる。こうして、どの元素にも五つすべての元素の分け前が含まれることになる。
純粋な一種類の元素はもはやどこにもなく、目に見える世界のすべては五つの混ざりものでできている。これが、粗大な世界の成り立ちの仕組みである。
元素を混ぜ合わせて粗大な世界を説明する考え方そのものは、ウパニシャッドの時代からある。チャーンドーギヤ・ウパニシャッドは、火・水・食物の三つを混ぜ合わせる三分化を説いており、五重化は、それを五元素に広げて精密にした後代の定式である。古い直観を、より整った形で受け継いだものといえる。
38. 個体と宇宙の一体性
こうして組み合わされた五大元素から、
四種の粗大な身体と、宇宙の卵と、
その中の十四の世界が生じた
このようにして、
個体と宇宙との一体性が成り立つ
原文(デーヴァナーガリー・IAST)
एतेभ्यः पञ्चीकृतपञ्चमहाभूतेभ्यश्चतुर्विधस्थूलशरीरं ब्रह्माण्डं ब्रह्माण्डमध्ये चतुर्दश भुवनानि सम्भूतानि ।
एवं पिण्डब्रह्माण्डयोरैक्यं सम्भूतम् ।
etebhyaḥ pañcīkṛtapañcamahābhūtebhyaścaturvidhasthūlaśarīraṃ brahmāṇḍaṃ brahmāṇḍamadhye caturdaśa bhuvanāni sambhūtāni ।
evaṃ piṇḍabrahmāṇḍayoraikyaṃ sambhūtam ।
解説
五重化を経た五大元素から、卵生・胎生・湿生・芽生の四種に分けられる粗大な身体と、宇宙の卵、そしてその中の十四の世界が生じる。私の身体と、山や海や星々から成る宇宙とは、まったく同じ五つの元素の混ざりものでできている。個体(ピンダ)と宇宙とのあいだに、素材の上での隔たりは何もない。
卵から生まれるもの、胎から生まれるもの、湿気から生まれるもの、芽生えるもの。四種の分類は、生きもの全体を漏れなく覆うための古典の数え方である。宇宙の卵と十四の世界も、当時の宇宙像の全体を指す言い回しであり、要点は、そのすべてが同じ五つの混ざりものでできている、という一点にある。
身体を特別な「私の城」と見る思い込みを、成り立ちの側からほどいていく一段である。
なお、この段の本文には版による異同がある。1852年版は「四種の粗大な身体と宇宙の卵と十四の世界が生じた」とだけ記し、「個体と宇宙との一体性が成り立つ」の一文は本書の底本と流布本が伝える読みである。本書は両者を続けて収めた。